「未来食堂」に行ってきました。

未来食堂の事業計画書には「あなたの”ふつう”をあつらえる」というコンセプトが書かれています。特別な材料を使ったりしませんが、個人の好みに合った小さなカスタマイズ=「あつらえ」をお願いすることが出来ます。

そのコンセプトの実現のための工夫がとても話題になり、多くのメディアから取材されています。そんな未来食堂のことを本で読んで実際に行ってみたくなりました。

きちんと食堂を経営していくために、昼は時間のない近隣のオフィスの人達向けに効率化されたオペレーションでランチを提供しています。ランチでしっかり利益を出して、夜は「あつらえ」というシステムで、自分の好みの食べ方や調理で食べられるようにしているのです。

ランチ時間の様子にも興味がありましたが、ゆっくり未来食堂に滞在したかったので、夜に訪ねてみることにしました。その直前の気持ちは前回のブログに書いています。

「未来食堂」の本を読んで、「未来食堂」へ行く。不思議な気分です。 | willbe

せかいさんと二人

未来食堂がある神保町の土曜日の夜7時頃は人通りも少なく、未来食堂のドアをくぐるとお客さんは1人しかいませんでした。その方も5分ほどすると食べ終わって出て行ってしまい、店内にはせかいさんと私1人。話しかけたいけど、ちょっと気後れしてしまいます。

食事を出し終わると、せかいさんは黙って写真集を見始めました。多分お客さんが少ない時はそうしているんでしょう。

静かに音楽が流れる中、私も黙々とご飯を食べます。

店内は写真で見たより少し広くて、清潔で居心地がいい感じ。

せかいさんと話してみたいといっても別に話題を用意してあるわけでもなく、でも他のお客さんもいないのだし話しかけるなら丁度いい機会・・・。黙って食べながらも、私の頭の中はグルグル回っています。

いわばここは店主の顔が見える定食屋さん。そういう定食屋さんは、きっと女将さんは愛想が良くって、世間話なんか振ってくれて・・・だから通いたくなるんだろうな。

けれど、せかいさんはこちらが話しかけないと、黙って写真集を見ています。

私はすでに本やブログを読んで、せかいさんがお客さんと近すぎず遠くない距離で接客したいと思っているのを知っていたので、ちょっと当惑するものの、驚いたりはしませんでした。

うーん、でもやっぱり私は表情か会話から、相手の気持ちが読めないと落ち着かないです。

今日のメインメニューは手作りガンモ

今日のメインは手作りガンモです。私が行った時はすでに小鉢が品切れだったので味噌汁の具を多めにしてくれました。後から来たお客さんは明太子をつけてもらっています。在庫に合わせて細かくメニューが変わるのも未来食堂の特色です。

このシステムも普通の定食屋さんに来たつもりなら、なんであの人と私のお皿が違うの?と不満に思うかもしれません。

でも、未来食堂はそういう場所じゃない気がしてきました。普通の定食屋さんとは何かが違う?食堂というより、誰かのお家で食べさせてもらっているみたいです。

思い切って話しかけてみた

話しかけると、話が弾むという訳でもないけれど、嫌がられている訳でもないみたい。私もそんなに話し上手ではないので、一言二言と話して、またちょっと沈黙が流れる・・・と言った感じです。

でも、少しずつ話すたび、せかいさんは裏表のない人なんだろうなと徐々に安心と親しみの気持ちが広がってきました。

それって自然な人と人との知り合い方だなぁと思います。

せかいさんの書いた本

店内には他の本や写真集と一緒に、せかいさんが書いた本も置かれています。

目の前に張り紙があって、「1冊購入で食事無料券1枚」と書いてありました。

もうせかいさんの本は持っているけれど応援の気持ちを表したいし、この本買います、とせかいさんに伝えました。

すると、「え?この本、持ってるんですよね?」

「はい。でも友達にも読んでもらいたいので(とっさに思いつく)もう1冊買います。」

「いやいや、回し読みすればいいでしょう?もったいないです。図書館にもありますし!やめときましょう(キッパリ)!」

結局、せかいさんの勢いに負けて買わなかったのですが、自分の本を売らない著者がいるなんて・・・せかいさんの真面目な口ぶりが可笑しくて一気にせかいさんとの心の距離が縮まりました。

厚意を送る

ご飯を食べていると、せかいさんがゴソゴソと山形県のご当地ハイチュウの箱を開けて、私の前に置いてくれました。

山形からヒッチハイクで来られたお客さんがお土産に置いて行ったそう。

未来食堂には「さしいれ」といって、お客さんが持ち込んだ食べ物を他のお客さんで分けるシステムがあります。たまたま私が来た日の差し入れはハイチュウだったというわけです。

ヒッチハイクだったら、若い男の子かな・・・ハイチュウを頬張りながら、会った事もない人の事を考えます。誰かの残していった厚意は暖かく、自分の住んでいる世界はまだまだ捨てたものじゃないなと思います。

写真は横向きでいいですよね?

こんな食堂があったんだよ!と、私がブログに書けば、未来食堂を知る人が増えるので、それ自体は良い事だと思っています。誰か必要な人に届けばいいなと思うからです。

普段のブログで人物の写真を入れたい時は、広告的な写真みたいに正面を向いた笑顔のその方を撮ったりするのですが、せかいさんをそんな風に撮るのは、「ちょっと違う」と思いました。

お客様は、一人一人が特別な存在でありつつ、同時にとても平凡な存在です。あるお客様にとっては ”特別な” 一品として提供したものは、同時に誰かの ”ふつう” でもあります。例えば、ある方の要望を聞いてあつらえた「やや甘くした卵焼き」の余りを、次の方の小鉢に添えて出しても、特別性はなく普通の一品として映ります。誰もが特別なもてなしを受け、かつ、誰もが ”ふつう” なのです。

未来食堂の事業計画書より

誰が来ても大切にもてなして、「ふつう」として扱いたい。そう思っているせかいさんの雰囲気をしっかり伝えるには、自然なせかいさんの写真のほうがいいと思いました。

さっき撮った横向きの写真を見せて、「やっぱり正面向いて、笑顔で写真って・・・(宣伝ぽくって)変ですよね?」と聞くと、せかいさんは深く頷いて「ええ、変ですよ!それは止めましょう。」と答えました。その様子もちょっとユーモラスで、なんだかいい人だなぁ・・・と勝手に思ってしまいました。

勝手な私の印象なので、ご本人は自分はそんな風ではないと思われるかもしれません。そして、行く時間、期待するものが違うと、未来食堂やせかいさんに持つ印象も大きく変わる気がします。でも、私にとっては普段考えない事を考える良い機会でしたし、わずかな時間ですが、せかいさんの人柄に触れた気がしました。

本の中で読んだ場所に行くのは、楽しくて不思議な体験でした。思うところも色々ありました。

次回100円引きのカードももらったし(全員もらえます)、また行く機会が出来たらいいな。

未来食堂 – あなたのふつうをあつらえます

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