先日、数人の友人といる時に誰かが着たまま服のタグを切ろうとしていました。
その時に弘法も先急ぎますので、ごめんくださいって言うよね?
と私が言ったら、全員から「えー、何それ、初めて聞いた!」と返ってきてびっくりしました。
てっきり、他の地方バージョンがあるかと思っていたら、そうじゃないんですね。
服を着たまま縫い物をするときのおまじない
私は高野山の近くの出身なんですが、服を着たまま、タグを切ったり、服のほころびを直す時には必ず唱えるおまじないがあります。
弘法も先急ぎますので、ごめんください
本当はしてはいけない事だけど、弘法大師(空海)だって急ぐ時にはそうする事もあるから、ごめんなさいを言えば特別にOKだよという意味だと思っていました。
子ども心に、そうか、体の近くで刃物を使うのは確かに危ないなと納得して、必ず着たまま針仕事をする時はこのおまじないを唱えていました。
元々はこの短歌
似たようなものはないか調べてみたら、どうもこちらの歌が元のようでした。
西行も旅の衣に急がれて着ていて縫うは目出度かりけり
西行のところが弘法になっているものもあって、おそらく私の生まれた場所は弘法大師のお膝元なので、弘法バージョンになった上に、もっと分かりやすい言い方に変わったんだなと思いました。
こちらの意味は、「服を着たまま縫うくらいに旅を急がなければいけない。それほど忙しい(誰かに必要とされている)のは素晴らしいこと」といったニュアンスです。
おまじないを唱えるたびに感じていたこと。
友人達が「へぇー、それ、いいねぇ」と言ってくれたおかげで、その言葉を口にする度に、世代を超えてその言葉を伝えてきた私のご先祖様のこと、着たまま縫うと危ないよ、とおまじないに乗せてやさしく注意してくれる昔の人の知恵、色んなことが無意識に頭の隅をよぎっていたことに気がつきました。
そう言われれば、いつもこのおまじないを言っているときは心のどこかで「教えてくれてありがとう」とちょっと暖かい気持ちになっています。
そして、自分の子どもにも、このおまじないを言いながらほつれを縫ったりしたことがありましたが、無意識に「ご先祖様から教えてもらったことは次の世代に渡したよ」と自分の役目を果たしたような気分でいたんだなぁと。
それは日本人の奥ゆかしい表現の仕方かもしれませんし、丁寧な暮らしぶりかもしれないけれど、知らず知らずに昔の人から日本人らしさのバトンが渡されていたんだなぁと改めて思いました。
それは友達がいいねと言ってくれないと気が付かなかったことで、言葉の感度の高い人が周りにいると楽しいなぁと思った出来事です。